ごく当たり前の生活
1976年にやどかりの里が経済的な課題を抱え、存続の危機に陥った際に
開かれた利用者とスタッフの相互研修の記録では、座談会の形式でやどかりの里が行ってきた
ことと、これから先に継続して行くべきことについて、利用者や家族も含めて語り合っている
(谷中・早川,1977)。その中で彼らは、自分たちがやってきたことが「当たり前の生活」の実
現に向かうものに他ならないことを再確認している。
谷中は「当たり前の生活」の考えをさらに一歩進め、「ごく当たり前の生活」をキーワード
としてあげている。「ごく当たり前の生活」では、「ごく」の部分が大事であるとしており、
単に人並みの生活をするということではなく、その人らしい生活であることがそこに含まれる
という(谷中,1996前掲)。
「ごく当たり前の生活」とは、どのような生活であってもその人自身が望み大切にしている生
活を尊重するという意味が込められている。
「当たり前の生活」がノーマライゼーションを指すとすれば、「ごく当たり前の生活」は、
ソーシャル・インクルージョンの思想に近い意味を持つ言葉であると考えられる。
谷中は、この「ごく当たり前の生活」を可能にするためには、生活支援センターのような地
域の中に拠点となる「安心の場」があることと、当事者同士によるセルフ・ヘルプの活動
家族・近隣・友人等その人にとって必要な人々によるネットワークを含んだフォーマル・イン
フォーマルなネットワークの組織化、さらに住居、就労を含んだ多様なサービスの用意と開発
が必要であると述べている